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接地(アース)

機器接地と系統接地

接地とは、電気設備機器や電路と大地を電気的に接続することです。接地電極という金属製の棒や板を土中に埋め込み、その電極から電線で電気設備や電路に接続します。
接地には目的によって種類があります。ここでは機器接地系統接地(中性点接地)を紹介します。

機器接地

アースを接続していないと・・・

洗濯機や冷蔵庫、電子レンジにはアース(接地)が必要です。
アースはどんな役割があるのでしょうか。
図1

上の図は、洗濯機です。
電力会社側の変圧器は中性線を接地しています。
アースを取っていない状態で漏電が発生すると図1の赤い矢印のように漏電電流が流れ、人が感電してしまいます。状況によっては人が死に至る可能性もあります。

アースを接続していると・・・

図2

アースを取っていると図2の赤い矢印のように漏電電流が流れ、人に流れる電流が0Aにはなりませんが、かなり小さくなります。これは人よりもアースの方が抵抗が小さく、電流が流れやすいためです。
アースは必ず正しく接続しましょう。

系統接地

系統接地とは

電力系統の電路を大地と電気的に接続することを系統接地といいます。一般的には中性点接地が採用されています。

中性点接地とは

変圧器の二次側の中性点を接地することを、中性点接地といいます。図3は高圧単相6600Vから低圧単相3線式210-105Vに変圧している変圧器の図です。
図3

中性点というのは電気的に中立である点という意味ですので、
単相2線式及び3線式であればN相を、3相3線式の2次側がY結線の場合はYの中心を接地することになります。
3相3線式の2次側がΔ結線の場合、中性点がないので、300V以下の場合に限り低圧側の1端子を接地します。一般的にはS相を接地しますが、電気的にはR相でもT相でも問題はありません。
N相であっても、S相であっても、接地するとその相の対地電圧は0[V]となり、その相に触れても感電しなくなります。(危険ですので触ることはやめましょう。テスタなどでN相やS相の対地電圧を確認すると0[V]であることが確認できます。)
よく「S相はN相とは違って中性線ではないのに、接地しても漏電しないのか?」という疑問を耳にしますが、どの相を接地しても、1か所だけの接地であれば電流が周回するルートができないので問題はありません。また、電路のどこかで漏電が発生すると2か所で対地に接続されることになるため、漏電電流が流れますが、これはN相の接地であっても、S相の接地であっても同様です。
変圧器2次側の接地はB種接地という種類です。電気設備技術基準によると、B種接地の接地抵抗は、
変圧器の高圧側又は特別高圧側の電路の1線地絡電流のアンペア数で150 (変圧器の高圧側の電路又は使用電圧が35000V以下の特別高圧側の電路と低圧側の電路との混触により低圧電路の対地電圧が150Vを超えた場合に、1秒を超え2秒以内に自動的に高圧側の電路又は使用電圧が35000V以下の特別高圧側の電路を遮断する装置を設けるときは300,1秒以内に自動的に高圧側の電路又は使用電圧が35000V以下の特別高圧側の電路を遮断する装置を設けるときは600) を除した値に等しいオーム数以下
となっていて、一般的に150を1次側の一線地絡電流で割った値がB種接地の接地抵抗であることがわかります。

中性点接地の目的

最大の目的は高低圧混触時の低圧側の保護

中性点接地の目的は、
@高低圧混触時の低圧側電位上昇の抑制
A低圧側地絡時の健全相電位上昇の抑制
B地絡継電器・漏電遮断器の確実な動作

等があります。

@高低圧混触時の低圧側電位上昇の抑制

変圧器の1次側巻線と2次側巻線は平常状態では絶縁されています。
しかし、万一この絶縁が破壊すると、図5のように1次電圧が2次側電路に印加されることになります。
図5

これは普段低圧で使用する回路に高圧が印加される訳ですから大変危険です。2次側電路の絶縁は高電圧の侵入により破壊し、短絡事故や地絡事故を巻き起こし、最終的にはケーブルや機器が焼損するといった極めて過酷な事故です。みなさんが今操作しているパソコンにも高電圧がかかるのです。
しかし、中性点接地がしてあれば、図6のように電流が流れ、高低圧混触時の低圧側電圧は150V以下に抑えられます。
図6

先ほど電気設備技術基準で、B種接地の接地抵抗は一般的に150を1次側の一線地絡電流で割った値と述べました。図6の場合、150をIg(赤い線で示される高圧側の一線地絡電流の値)で割るということになります。つまり、一線地絡電流が中性点接地の抵抗を流れることによって発生する電圧Vgは150[V]以下、つまり中性点であるN相の電圧Veが150[V]以下ということになります。よって低圧側電路に高圧が印加されることを抑制できるのです。

A低圧側地絡時の健全相電位上昇の抑制

図7は低圧側で地絡事故が発生したときの図です。
図7

仮にT相が完全地絡(0Ωで大地に接続された状態)したとすると、T相の対地電圧は0[V]になります。そのためR相の対地電圧Veは210[V]になります。
また、地絡が発生すると対地静電容量によって進み位相の電流が流れます。地絡が一時的なもので地絡状態が消滅すると、電流が0[A]になったときに地絡電流がとまります。地絡電流が90[°]進み電流であったとすると、電流が0[A]になったときの電圧は+か-の最大になります。+電圧が対地静電容量に充電された状態で地絡電流がとまったとすると、50[Hz]であれば0.01[秒]後に-電圧が印加されることになり、地絡点には実効値105[V]の最大値148[V]の2倍296[V]が印加されます。これは進み小電流遮断現象といいます。
進み小電流遮断現象による高電圧によって再度地絡が発生する可能性があります。これを再点弧といいます。
しかし、図8のように中性点接地がされていると、R相の対地電圧Veは、Reに地絡電流Igが流れることによって発生する電圧Vg+105[V]となります。また、非接地方式に比べると地絡電流は増大しますが、対地静電容量による影響が減り再点弧が発生しにくくなります。
図8

B地絡継電器・漏電遮断器の確実な動作

中性点接地方式は、中性点を低抵抗で接地するので、非接地方式に比べ地絡電流が大きくなります。よって地絡継電器や漏電遮断器が地絡の発生を検知しやすくなり、事故除去が確実に行えるようになります。

中性点接地の種類

直接接地方式

変圧器の中性点と大地を、導体で直接接地する方式です。187kV以上の系統で採用されています。
【長所】
地絡発生時の健全相電位上昇が少ないので絶縁を軽減することができる。
中性点が直接接地されているため中性点の電位が一定。
【短所】
中性点直接接地は大地と中性点が接地抵抗のみの低抵抗で接続されるため、地絡が発生すると大きな地絡電流が流れる。

抵抗接地方式

変圧器の中性点と大地を、抵抗を介して導体で接続し接地する方式です。22〜154kVの系統で採用されています。
【長所】
地絡発生時の地絡電流を抵抗で抑制し、通信線の誘導障害を防ぐ。
【短所】
直接接地と比べると、地絡電流が抑制されるため地絡検出に配慮が必要。
直接接地と比べると、地絡発生時の健全相対地電圧上昇が大きい。

消弧リアクトル接地方式

変圧器の中性点と大地を、リアクトルを介して導体で接続し接地する方式です。架空送電系統で採用されています。
系統の電路と大地の間には静電容量があります。この静電容量と並列共振するリアクタンスのリアクトルを選定することで1線地絡電流を0に近づけます。
【長所】
地絡発生時のアーク放電が自然消滅するので、通信線の誘導障害を防ぐ。
【短所】
直接接地と比べると、地絡電流が抑制されるため地絡検出に配慮が必要。
直接接地と比べると、地絡発生時の健全相対地電圧上昇が大きい。

補償リアクトル接地方式

変圧器の中性点と大地を、並列接続された抵抗とリアクトルを介して導体で接続し接地する方式です。地中送電系統で採用されています。
地中送電線は架空送電線に比べ対地静電容量が大きいため、1線地絡時の事故点地絡電流は、中性点に流れる電流と静電容量に流れる電流の和となり、大きくなります。この対地静電容量に流れる地絡電流を抑制する地絡電流を抑制するため、抵抗とリアクトルを並列接続しています。
【長所】
地絡発生時の地絡電流を抑制し、通信線の誘導障害を防ぐ。
【短所】
直接接地と比べると、地絡電流が抑制されるため地絡検出に配慮が必要。
直接接地と比べると、地絡発生時の健全相対地電圧上昇が大きい。

非接地方式

変圧器の中性点と大地を接地しない方式です。6.6kV配電系統で採用されています。
非接地の場合、1線地絡時の地絡電流がかなり小さいので、故障検出が難しくなります。よって接地型計器用変圧器(EVT)を用いて完全地絡時に限流抵抗で制限された故障電流を流し故障検出させます。
【長所】
地絡発生時の地絡電流を抑制し、通信線の誘導障害を防ぐ。
【短所】
直接接地と比べると、地絡電流が抑制されるため地絡検出に配慮が必要。
直接接地と比べると、地絡発生時の健全相対地電圧上昇が大きい。

中性点接地の副作用

非接地方式より中性点接地方式のほうが地絡電流が大きい

くどいようですが、中性点接地方式は、中性点を低抵抗で接地するので、非接地方式に比べ地絡電流が大きくなります。よって人が感電した場合も、人体に流れる電流は非接地方式に比べ増大します。
しかし、高低圧混触時の低圧側の電位上昇は広範囲に及び、絶縁破壊による火災や感電などをひきおこすため、もっと恐ろしい事故となります。そのため2次側が低圧の変圧器には一般的に中性点接地方式が採用されています。

接地抵抗の値

接地電極と大地との間には抵抗があります。これを接地抵抗といいます。
接地抵抗の値は電気設備技術基準で下表のように定められています。

種別 接地抵抗値 接地工作物
A種接地 10Ω以下 高圧・特別高圧の機器の鉄台、外箱。高圧電路の避雷器。特別高圧計器用変成器2次側電路。高圧ケーブルを収める管等、電線接続箱、金属被覆(屋内電線路など)。
B種接地 150/I1Ω以下。I1は1線地絡電流。I1の値または所要抵抗値を電力供給者と打ち合わせる。 高圧・低圧結合変圧器の低圧側中性点(低圧側が300V以下の場合で中性点接地が難しい場合の低圧側の1端子)。高圧及び特高と低圧結合変圧器の巻線間の金属製混触防止板。特高・低圧結合変圧器の低圧側中性点。架空電線に多芯型電線を使用する場合の絶縁被覆していない中性点又は接地側電線。
C種接地 10Ω以下 300V超過の機器の鉄台、外箱。300V超過の電線管、金属ダクト、バスダクト、ラック、メッセンジャーワイヤー。低圧配線と弱電流線との間の金属製隔壁。粉塵防爆フレクシブルフィッチング。
D種接地 100Ω以下 高圧計器用変成器の2次側電路。300V以下の機器の鉄台、外箱。地中電線を収める管等、電線接続箱、金属被覆。架空メッセンジャーワイヤー。300V以下の電線管、金属ダクト、バスダクト、ラック。フロアダクト、ライティングダクト、線ぴ。X線装置等。

混触防止板

物理的に高低圧混触を防ぐ

低圧電路に接地工事をすることによって逆に不都合を生じる場合や、300Vをこえる低圧電路に中性点が取れない場合は、高圧巻線と低圧巻線との間に金属製の板を設け、変圧器内部故障の際に、高圧が直接低圧巻線に侵入しない構造をもった混触防止板付変圧器を使用し、混触防止板をB種接地すれば低圧電路を非接地とすることができます。
図4

混触防止板は1次巻線と2次巻線の間に挿入した金属板です。この金属板を接地すれば1次巻線と2次巻線が直接接する可能性は限りなく0になります。
混触防止板付変圧器は混触防止板用接地端子があるものと、混触防止板用接地端子と変圧器本体の接地端子が共通になっているものがあります。接地は、1ヶ所に2種類の接地を施す必要がある場合、どちらか接地抵抗の小さい方の接地で兼用することが認められています。兼用する場合は混触防止板用接地端子と変圧器本体の接地端子が共通になっているものを選択します。

MCB用アースとELB用アース

同じ変圧器から電源を供給している負荷A・Bがあったとします。
図9

負荷Aで漏電が発生すると、漏電電流がアースに流れることにより、漏電電流と接地抵抗の積で表される電圧がかかります。この電圧は負荷A・B両方の外箱と大地の間の電圧である対地電圧を上昇させることになります。感電のリスクを低減させるため負荷Bを漏電遮断器で保護していますが、漏電遮断器で保護されていない負荷Aの漏電で負荷Bの外箱の対地電圧が上昇することになります。このため内線規程では、漏電遮断器で保護されている電路と、漏電遮断器で保護されていない電路の接地は共用しないことになっており、動力盤にELB(漏電遮断器)用アースとMCB(配線用遮断器)用アースの端子が別々に取り付けられている場合があります。
しかし、接地抵抗が2Ω以下の接地極であれば共用してもよいことになっています。これは、接地抵抗が低ければ対地電圧の上昇が少なくなるため、漏電遮断器で保護された負荷の外箱の対地電圧上昇が小さくなるためです。
内線規程 1350-13 接地線及び接地極の共用の制限
漏電遮断器で保護されている電路と保護されていない電路に施設される機器などの接地線及び接地極は共用しないこと。
ただし、2Ω以下の低抵抗の接地極を使用する場合は、この限りではない。


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