一般の住宅では、電気を使いすぎると分電盤の大元のブレーカーが落ちて、停電になります。このブレーカーは電流制限器、アンペアブレーカー、リミッターなどと呼ばれ、その容量に応じて基本料金を支払う仕組みになっています。
一般住宅と違って、高圧以上で受電するビルで電気を使いすぎた時に大元のブレーカーが落ちると、ビル全体が停電してしまうことになります。照明が消え、空調が止まるだけではなく、エレベーターに閉じ込められるなど、大きな影響があります。そこで、規模が大きい需要家には電力のデマンド値で管理しています。
電力のデマンド値とは最大需要電力ともいい、一定期間における電力の最大値を指します。一般住宅は電流制限器の電流容量の値[A]に応じて基本料金を支払っていますが、高圧以上で受電する需要家は契約電力[kW]に応じて基本料金を支払います。需要家はデマンド値が契約電力以下になるようにしなければなりません。
契約電力やデマンド値は瞬間の電力の値ではなく30分間の平均値を取るため、30分間に使用した電力量[kWh]と等しくなります。
デマンド値が契約電力を超えることをデマンドオーバーといいます。デマンドオーバーが発生すると、その需要家の契約電力に応じてペナルティが発生します。
過去1年間(当月を含む)のデマンド電力の最大値が契約電力となります。したがって、過去1年間のデマンド電力の最大値を更新すると、その後1年間の契約電力はその最大値が適用されます。
契約者と電力会社との協議により契約電力が決められます。大抵、過去 1年間の最大需要電力をもとに契約電力が決定されます。デマンド電力が契約電力を超えると、超過した電力に応じて違約金を支払う必要があります。また、超過したデマンド電力をもとに、新たに契約電力変更の協議が行なわれることになります。
デマンド値が契約電力を超えないためには、下記のような方法があります。
複数の負荷を同時に使用すると、デマンド値が大きくなります。そのため、同時に使用することを避け、バラバラに使用することでデマンド値を下げることができます。
デマンド値が高くなる時間帯に、停止しても支障がない機器を停止してデマンド値を下げることをピークカットといいます。手動で負荷を停止してもピークカットを行うことは可能ですが、デマンド値が高くなりそうになったら自動的に順番に負荷を停止していく装置もあります。これをデマンド制御装置といいます。
デマンド制御装置は、30分周期のはじめの一定時間で30分後のデマンド値を予測し、デマンド予測値が契約電力を超過する場合は、あらかじめ設定した順序で順番に負荷を停止していきます。
たとえば、30分周期のはじめの10分間で100[kWh]を使用した場合、30分周期の終了時は、300[kWh]を使用していることが予測できます。
30分間に300[kWh]を使用していると、デマンド値は
300 × 2 = 600[kW]
となります。
契約電力が500[kW]の需要家で、デマンド値が600[kW]になると100[kW]のデマンドオーバーになりますので、30分周期の終了時のデマンド予測値が250[kW]以上になるという予測が立った時点で、負荷を停止する必要があります。
30分周期のはじめの10分間が経過した時点で、30分周期終了時のデマンド予測値が300[kW]であれば、残りの20分間で
300[kWh] − 250[kWh] = 50[kWh]
を削減しなければなりません。
20分間で50[kWh]を使用する負荷は、
50[kWh] × 60[分]/20[分] = 150[kW]
の負荷になりますので、あらかじめ設定した順序で150[kW]以上の負荷をを停止させピークカットを行います。
負荷停止後にデマンド予測値が契約電力を大きく下回る場合は、停止した負荷を再度起動させます。
デマンド制御装置は予測に基づき動作するため、負荷の急変により予測を外れることがあるため、多少裕度をもって設定します。