ビルや工場などの大きな建物で漏電が発生したとき、漏電している系統以外の漏電リレーが作動したり、漏電遮断器がトリップすることが同時発生することがあります。
時には何十か所も同時に発生して、一体どこで漏電が発生しているのか、突き止めるのに時間がかかる場合があります。
これは漏電電流の回り込みにより発生する現象です。
図1
図1は漏電電流の流れるルートを示した図です。
低圧電灯盤の負荷の1か所で漏電が発生しています。
通常、漏電が発生した場合には、赤の点線のルートで漏電電流が流れます。
しかし、系統の構成によっては、紫の点線のルートで漏電電流が流れる場合があります。
これは電路の浮遊静電容量による影響です。2つの導体があると、その導体の間には静電容量があります。電線やケーブルなども地球の間に静電容量があり、これを浮遊静電容量といいます。電路が長ければ長いほど、浮遊静電容量が大きくなります。浮遊静電容量が大きいとインピーダンスが小さくなるため、電流が流れやすくなることから、電路が長い系統ほどこの回り込みのトラブルが起きやすくなります。
浮遊静電容量はコンデンサなので、浮遊静電容量のインピーダンスZCは
で求められます。分母のfは周波数[Hz]なので、周波数が高くなるほど浮遊静電容量のインピーダンスが小さくなり、流れる電流が大きくなります。
これは、高調波成分を含む漏れ電流が流れると、浮遊静電容量のインピーダンスが小さくなり、漏れ電流が浮遊静電容量に流れやすいということを表しています。
漏れ電流の回り込みによる、漏電リレーや漏電遮断器の不要動作を防ぐには下記の対策があります。
図1を見ると、漏電が発生している低圧電灯盤No.1の漏電リレーは接地から変圧器の方向に電流が流れています。また、漏電遮断器は、電源側から大地に電流が流れています。
一方、健全な低圧電灯盤No.2の漏電リレーは変圧器から接地の方向に電流が流れています。また、漏電遮断器は、大地から電源側に電流が流れています。
この漏れ電流の向きに注目して自系統の漏電か、他系統の漏電かを判断するのが方向性を判断できる漏電検出になります。
地絡継電器は、方向性を持っているタイプがあり、自系統からの漏れ電流の流出で動作し、他系統からの漏れ電流の流入では動作しないものがあります。
前述の通り、漏れ電流の周波数が高くなると浮遊静電容量のインピーダンスが小さくなって、浮遊静電容量に電流が流れやすくなります。他系統の漏れ電流の周波数が高い場合、健全系統の浮遊静電容量に他系統の漏れ電流が流れ込みやすくなるので、漏電検出部に周波数特性を持たせ、商用周波数より高い高調波成分の漏れ電流は他系統の漏れ電流とみなし除外して漏電判断をする漏電リレーや漏電遮断器があります。