原子力発電所では核分裂によって発生するエネルギーを発電に利用しています。
図1は核分裂のイメージです。
図1
質量数が233及び235のウラン、239や241のプルトニウムの原子核が中性子を吸収すると、原子核が分裂します。これを核分裂といいます。
核分裂すると、核分裂生成物と呼ばれるさまざまな新しい原子核が誕生すると同時に、中性子が放出されます。またウランやプルトニウムの質量の一部が消失します。放出された中性子は次の核分裂のきっかけになり、消失した物質の質量は熱エネルギーとなります。この熱エネルギーを利用して蒸気を発生させ、タービンを回して発電します。
原子炉を新設した場合、最初に運転する時には、最初の核分裂を起こさせる中性子が必要になります。この最初の核分裂を起こさせる中性子を供給する物質を中性子源といいます。中性子源には、自然に核分裂して中性子を放出する人工の放射性物質であるカリホルニウム252をステンレス管に入れたものが使われています。
原子炉を点検等で停止させ、運転を再開する時は、ウラン235のなかに生成されたキュリウム242や244が放出する中性子で核分裂させることができますので、中性子源は不要です。
物質は不生であり、不滅です。つまり、0から物質が生まれることはなく、物質が消滅して0になることはありません。たとえば、木材に火をつけると燃えて灰になり、大きさも小さくなり重さも減ります。しかしこれは木材が消滅したのではなく、主に燃えた時に発生した熱エネルギーと灰などに変化しています。
核分裂は、原子核が分裂する際に質量が消失するため、その質量に応じた大きなエネルギーを放出します。
軽水炉とは、減速材に軽水(=H2O)、つまり水を用いた原子炉で、世界中で最も利用されている方式です。
原子炉の燃料はウランです。採掘された天然ウランは核分裂を起こしやすいウラン235が0.7%含まれ、そのほかは核分裂を起こしにくいウラン238となっています。軽水炉の燃料として安定した核分裂をさせるためにはウラン235を3%以上にする必要があり、天然ウランを遠心分離法などの手法で処理しウラン235の濃度を高め、低濃縮ウランとします。低濃縮ウランを高温で焼き固め、小指の先ほどの大きさの固形ペレットに加工し、ジルコニウム合金製のパイプに数百個納めて燃料棒とします。
核分裂によって放出される中性子は、高速中性子という大きなエネルギーを持った中性子です。ウランやプルトニウムは高速中性子を吸収しにくいので、中性子を減速して吸収されやすい熱中性子にする必要があります。この減速に用いられるものを減速材といいます。減速材として重水・軽水・黒鉛などが使用されます。
軽水は中性子の減速効果が大きい反面、中性子を吸収してしまう性質も大きいので、天然ウランをそのまま核燃料として用いても、核分裂を継続することができません。そのため軽水炉にはウラン濃度を天然の1%以下から3%程度まで濃縮した、濃縮ウランを使用します。
冷却材は、原子炉内の核分裂反応で発生した熱エネルギーを原子炉外へ運び出すものです。軽水炉は水が減速材及び冷却材を兼用します。
制御棒は中性子吸収材で作られた原子炉の出力を制御するための装置です。制御棒を原子炉炉心に挿入すれば、制御棒が中性子を吸収し、核分裂反応に利用される中性子が減少するため出力が低下します。反対に出力を増加したい場合は制御棒を引き抜きます。
核分裂で発生した中性子のうち、1個を次の核分裂に利用し、そのほかを制御棒に吸収させると核分裂の数が一定となり、結果的に原子炉の出力を一定に保つことができます。この状態を臨界と呼びます。
核分裂で発生した複数の中性子を次の核分裂に利用すると核分裂が増えていき、臨界超過となって出力が増加します。ちなみに、原子爆弾は臨界超過の状態を継続させることにより膨大なエネルギーを発生させる爆弾です。
発生した中性子を減らすように制御棒で吸収させると臨界未満となって出力が減少します。
減速材の温度が上昇すると膨張し、密度が低下します。すると高速中性子が減速されにくくなり熱中性子の量が減少するため、原子炉の出力が低下します。これを減速材温度効果といいます。
減速材の温度が上昇すると、気泡が増加します。これもまた減速材の密度が減少することになりますので、原子炉の出力が低下します。これをボイド効果といいます。
ウラン238は中性子を吸収する特徴があります。燃料であるウランにはウラン235と238が混在しており、ウラン238は温度が上昇すると中性子を吸収する効果が増大するため、ウラン235の核分裂に寄与する中性子が減少し、原子炉の出力が低下します。これをドップラー効果といいます。
BWRは、核分裂により得た熱エネルギーを原子炉内の冷却水と呼ばれる水が吸収して直接蒸気に変化します。その蒸気でタービンを回し発電機にて発電します。タービンに放射能を含む蒸気が流れるため、放射線管理区域が比較的広くなります。
出力の調整は制御棒の位置調整と、再循環量の調整で行われます。
再循環量とは、原子炉の冷却材を循環させるポンプの流量のことで、再循環量が増加すると原子炉内の気泡が減少するため、高速中性子を効果的に減速できるようになり出力が増加します。
PWRは、核分裂により得た熱エネルギーを原子炉内の冷却水と呼ばれる水が吸収して高温水に変化します。原子炉内は高圧に加圧されているため、冷却水は100℃以上の高温水になります。その高温水を蒸気発生器という熱交換器に流して蒸気を発生させ、タービンを回し発電機にて発電します。
熱交換器で原子炉内冷却水とタービン駆動用蒸気の水が絶縁されているため、タービンに放射能を含む蒸気が流れることはないため、放射線管理区域が比較的狭くなります。
出力の調整は制御棒の位置調整と、冷却水のホウ素濃度調整で行われます。
ホウ素は中性子吸収効果の大きい物質であるため、ホウ素濃度が増加すると核分裂に利用される中性子が減少し、原子炉出力が低下します。
使用済核燃料を処理して、核分裂生成物とウランやプルトニウムを分離させ、回収することを再処理といいます。再処理で回収されたウランやプルトニウムは再度加工され核燃料となり、軽水炉に使用されます。これをプルサーマルといいます。プルサーマルという名称は、プルトニウムとサーマルリアクター(熱中性子炉)から作られた造語です。
原子力発電は、故障の発生を防止する、故障の拡大を防止する、事故の発生を防止するろいう3重の防護策を取っています。具体的には下記の通りとなります。
万が一原子炉の故障や事故がおきても放射性物質が漏洩しないよう、原子炉は多重障壁という対策がとられています。具体的には下記の通りとなります。
原子力発電は、発電の過程で二酸化炭素を発生しません。二酸化炭素は地球温暖化の原因となっている温室効果ガスですので、火力発電に比べ原子力発電は環境にやさしいといえます。
また、燃料であるウランは供給が安定していて価格が安く、高騰する可能性は低いので、エネルギーセキュリティに優れています。
原子力発電所は、固定費が高く、燃料費が安いという特性があります。負荷によって出力調整することは不利であり、電力需要へのベース電力供給に適しています。つまり、高稼働することが望ましい発電です。